今や多くの企業が掲げる「健康経営」。従業員の健康状態を改善することで、生産性向上などのほか、イメージアップにも繋がる。いの一番の施策として「社内(敷地内)全面禁煙」をうたう企業は多いが、実は弊害も生まれてきているようで…。街と同様、“静かなる喫煙所回帰"が進みつつあるというが、本当だろうか? オフィス等にダクト工事不要・簡単設置の喫煙ブースを販売・レンタルするエルゴジャパンに、実態を聞いた。
【写真】朝倉未来が動いた…!大阪に作った喫煙所
■「オフィスを全面禁煙にしたら…」、想定外の事態に悩む経営者
インバウンドの増加もあり、路上喫煙やポイ捨ての問題が顕在化している昨今。コロナの時期に相次いで撤去された、公共の喫煙所の必要性が改めて問われている。大阪・関西万博も当初は全面禁煙を方針としていたが、会場内で吸い殻が見つかるなどした結果、2ヵ所の喫煙所を設置した。喫煙者を排除するのではなく、正しく吸える環境を整備することが、ひいては非喫煙者にもメリットがある。そうした発想はひと頃、“健康経営ブーム"に乗った企業にもじわじわと広がりつつあるようだ。
改正健康増進法が全面施行された2020年4月から、オフィスなどの施設が原則屋内禁煙となり、敷地内の全面禁煙に踏み切る企業も出てきた。ところがそれから数年経った今、一度は閉鎖・撤去した喫煙スペースの再設置を検討する企業がじわじわと増えているという。
喫煙人口の減少や禁煙推奨のムードといった時流とは逆行するような動きながら、そこには企業を円滑に機能させるための、やむにやまれない事情があった。オフィスや飲食店などに喫煙ブースを販売・レンタルするエルゴジャパンの福田裕二さんは、「オフィスを全面禁煙にした結果、さまざまなお困りごとが起きてしまい、ご相談に来られる企業は多いです」と証言する。
たとえばこんなケースだ。会社にたばこを吸える環境がなくなったため、喫煙者の従業員は遠くの喫煙所まで外出するようになる。すると離席時間が長くなり、業務効率が低下する。さらには非喫煙者の従業員から「長すぎるたばこ休憩」に対する不満の声が上がり、職場内に軋轢が生じる――といった負の連鎖が起きている企業もあるという。
「ただ、わざわざ遠くの喫煙所まで行くのも“喫煙ルールを守ろう"という意識の表れだと思うのです。もっと困るのは、近場のビルの陰や近所の公園などの喫煙禁止区域で吸われてしまうこと。会社のイメージが悪くなるばかりか、近隣住民に迷惑をかけてしまうと頭を悩ませている経営者もいました」
もちろん、悪いのは“ルールを守らない"喫煙者だ。とはいえ、これも全面禁煙という極端な方向に振り切ったことの弊害と言えるかもしれない。
昨今は、社員の健康管理を経営的な視点から戦略的に行う「健康経営」という概念も定着し、企業の価値向上のために「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」の認定を目指す企業も多い。
オフィスの全面禁煙の流れも、「健康経営」のトレンドが大いに影響したと考えられる。しかし経済産業省のデータによると、健康経営の銘柄選定企業の約半数が全面禁煙を導入していない。従業員の健康のためには「まずは禁煙」と考えそうなものだが、そう簡単な話ではないらしい。むしろ、「正しい分煙環境こそ健康経営に寄与する」という考えから、喫煙ブースを導入する企業もあるようだ。
「健康経営というと“体の健康"がイメージされがちですが、むしろ昨今は“心の健康"を重視する動きがあります。たとえば、ある工場で敷地内を全面禁煙にしたところ、辞めてしまう人が続出してしまったそうです。工場に長時間こもりきりで仕事をしていればストレスも感じるでしょうし、発散できる場所はやはり必要だったのだと思います」
■禁煙化で社員が辞めるケースも…喫煙ブースは「福利厚生の一環」
人手不足が深刻化する昨今、定着率の低下は企業にとって死活問題だ。従業員が安心して働ける職場づくりはますます重要となっており、喫煙ブースを「福利厚生の一環」と捉える企業もあるという。
「休憩時間の過ごし方は人それぞれです。職場が全面禁煙であれば、たばこを吸う方は外へ出るでしょう。ところが制服のままたばこを吸っていたため、近隣からクレームが入ってしまった。『きちんと喫煙マナーを守っていたのに、その従業員がかわいそうだ』と、執務室に喫煙ブースの設置を決断した経営者もいました。
喫煙ブース『スモーククリア』はダクト工事が不要で(2020年4月1日の既存建物に限る)、設置場所を選ばないのも喜ばれている点です。ニオイや煙を完全にシャットアウトできるため、執務室の近くに設置したことによる業務効率の向上は会社の利益に反映され、ひいては『非喫煙者への還元にもなった』とのお声もいただいています」
企業には、従業員の健康に配慮する法的な義務がある。しかし、そこには多様な従業員が所属しており、中には喫煙者も非喫煙者もいる。一方に我慢を強いれば、当然、歪みも生じるだろう。「吸う人も吸わない人も」というスローガンは、企業運営においても欠かせない視点となっている。
一方、非喫煙者の従業員にとっては、オフィスの全面禁煙は歓迎すべきところかもしれない。しかし「吸わない人」への配慮は、それだけでは不十分のようだ。
「改正健康増進法によって職場の分煙が義務化されましたが、壁で仕切られただけといった“不完全な分煙環境"しか備えていない企業はまだまだ多く、『喫煙所から漏れるニオイが耐えられない』と辞めてしまうケースもあるようです」
福田さんの指摘する、“不完全な分煙環境"のヤニで汚れた壁やニオイがこもった空間は、喫煙者にとっても快適な環境とは言い難い。非喫煙者であればなおさら、そこから漏れる煙やニオイ、喫煙者の髪や服に付いたニオイは我慢ならないものがあるだろう。
「正しく分煙するためには、厚生労働省の基準を満たした空気清浄機能を備えた喫煙スペースであることが必須です。さらに昨今、主流となりつつあるのが、たばこを吸う人だけでなく、吸わない人にとっても安全で快適な環境を整える『クリア分煙』という考え方です」
■海外とのビジネスでも欠かせない喫煙所、実態に即した分煙環境が求められる
エルゴジャパンが販売・レンタルする『スモーククリア』もクリア分煙を実現する喫煙ブースだ。同製品は有害物質を1回で99%以上濾過する高性能フィルターを備えており、かつ煙が流出しないように気流をコントロールすることで、キレイな空気だけを排出する設計となっている。さらにたばこの煙が拡散する前に吸引するため、服や髪にニオイを付けさせないのも同製品のメリット。喫煙ブースの隣にいても、たばこの煙やニオイを感じさせることはないという。
2019年のリリース以来、導入実績は5000台以上。幅広い企業で導入されているが、昨今は海外との取引の多い企業や、外国人労働者を雇用している企業からの需要が高まっているようだ。
「アジアにはまだまだ喫煙者の多い国もあり、特に中国人男性の喫煙率は45%。コロナ禍が明けて海外とのビジネス交流も本格的に戻ってきましたが、大切なお客さまが喫煙者だった場合、『オフィスは全面禁煙なので』と外にお連れするわけにも…と、喫煙ブースを設置される企業も増えています」
オフィスでも街でも、多様な人々が行き交う場所では、誰一人取り残すことのない安全で快適な環境づくりが求められる。たばこに関しても、単なる“排除論"では解決しないことも多いことがわかった今、実態に即したベストな分煙環境を模索する動きは社会全体で確実に広がりつつあるようだ。
(文:児玉澄子)
(提供:オリコン)
12月15日 9時00分配信